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65.5km走破したこと

· 9 min read
Ikuya Yamada
non-stack engineer

自転車()で65km移動してわかったことの続き

自転車を準備してもらっている段になり、どうやら自転車の在庫にはずいぶん余裕があるようだと気付く。なにも開店すぐを狙わなくても全く問題はなさそうであった。

自転車に跨ってみると、どうにもリュックが邪魔くさい。それなりの量の荷物があったので、駅のロッカーにでも置いておこうかと考えたが、観光案内所のドアに'500円でアズカリマス'というようなことが書いてあったのでお願いすることにした。

なんの割引が効いたのかわからなかったが250円で良いとのことだった。安くなる分には何も文句はないので気持ちよく250円を支払い(500円玉で支払い250円のお釣りが出る)、身軽な状態で旅をスタートさせる。

一周するにあたっては、イナイチに掲載されているサイクリングマップのルートを参考にした。なお、猪苗代湖を一周、でイナイチということである。また、実際のルート上にも、迷いそうな分岐点には必ずイナイチはこちら、という案内があったので大変助かった。

東海地方と比べるとかなり肌寒い東北、秋の暮れ、曇った空のもと、イナイチチャレンジが始まる。広い空、見渡す限りの山と森、そして広がる猪苗代湖。贅沢すぎるほどの自然におかれていることに感謝の気持ちを感じつつも、人間ひとりのできることは地味なもので、ただひたすらに、愚直に漕ぎ続ける。

アップダウンの激しい山道を、モーターのアシストを受けながら進んでいく。一周は60kmほどと聞いていたので、バッテリーの残量と残りの走行距離とを計算しながらアシストの強度を切り替える。上り坂であれば消費電力を高めて、平坦な道のときは我慢する。だんだん平坦な道でも我慢ができなくなる。

森と呼ぶのが良いのか、湖畔と呼ぶのか良いのか、おそらくどちらで呼んでも構わないような道を走っていると、雨粒がハンドルを支える両腕に落ちていることに気付く。雨予報でもなかったので、なんの対策もない私はとりあえず緑の濃い木の下に陣取る。これだけ葉っぱの密度が高ければ多少雨漏りのする屋根と変わらないだろうと思ったのである。ヤフー天気によると10分ほどで雨雲は行きすぎるとのことだったので、じっと待っている。

湖畔に目を向けてみると、年季の入ったコンクリート造りの更衣室・公衆トイレが目に入る。夏の間のみ、湖水浴客が使うのであろうか、今は湖畔に続く道も立ち入り禁止になっている。雨が降っていると対岸もよく見えず、耳に入るのは雨音のみであり、人間の気配は一切ない。雨はだいぶ強くなり、密集した枝葉では庇いきれない雨粒が私にも降りかかる。

先ほどまで感じていた高揚からもすっかりと覚め、早く雨が止まないものかと現実的な願いを心に抱く。5分ほど天に祈りをささげていると、願いが通じたのか、はたまた予報通りだったのか、数分で雨は行き去る。山は天気が変わりやすい、をまさに体現したような通り雨だと感心したところで再びサドルにまたがる。

しばらく湖畔を走り、多少のアップダウンを耐え、田んぼの中を走り、トンネルを抜ける。トンネルを抜けるとそこは、集落であった。空腹を感じていた私は通りがかりの商店でどら焼きを購入する。砂浜の手前が芝生になっているのを見つけ、湖面を眺めながら早速どら焼きを頬張る。

走ってきた道と景色を思い出し、頭の中で三次元座標に展開する。山と水田が湖を囲っている姿を心に抱く。湖が絵画だとすると田んぼは額縁のように湖の周囲を囲んでいる。しかし円形の額などあるだろうか、と考える。

その後も漕ぎ続ける。

収穫が終わった田んぼとほんのり赤みがかった山の木々。青い空は見えずザ・どんよりとした日である。湖水浴をしている人はいなかったが、釣り人やキャンパーを多く見かけた。(ちなみに、翌日に私は湖水に浸かることになる)

道中のレストランでドリアを食べ、道の駅によって買い物をして、何とかスタート地点に帰ってくる。漕ぎ始めてから6時間である。 自転車についていたサイクルコンピュータによると、走行距離は65.5kmとのことだった。多分けっこう長いのだろうが、何とも評価に困る距離だとこのときは思い、一応スマホのカメラで記録をしておいた。

最後に観光案内所で荷物を受け取る際に、ちょっとしたサプライズがあった。このサプライズがなんなのか知りたい人はぜひ猪苗代湖を一周してみるとよいのだが、ともかくそれは、純粋にうれしいものであった。

帰り際、まだ片付けられずにいた、大半のバッテリーを使い切った愛車を見ると、まあ君もそれなりによくやったよと言ってくれている気がした。ブルブル震える健脚と心を携えて、猪苗代駅に向かう。

半ば思い付きのように勝手にふらりとやってきて、誰に求められるわけでもない(ちょっとした)苦行をして、何か満たされた気持ちになった、そんな不思議な、記憶に残る日だった。